ラオスの人権問題に取り組みを

アセアン首脳会談で、社会活動家ソムバット氏の失踪事件や自由のはく奪問題を焦点に

(2016年8月31日、バンコク発) 東南アジア諸国連合(アセアン)がラオス人民民主共和 国の首都ビエンチャンで年次首脳会談を開催するに先立ち、人権団体をはじめ複数の NGO は、 ラオス政府に対して、国内で多発する強制失踪や不当逮捕などの人権問題に真剣に取り組むよ う呼びかけた。9 月 6 日から 8 日、ビエンチャンで開催されるアセアン首脳会談は、世界の指 導者たちが公式の場で人権問題への関心を表明する絶好の機会である。世界の指導者たちは、 権利の尊重、報道の自由、民主主義、信教の自由、財政の透明性といった人権・開発指標で常 に下位にランクされるラオスに対して、その元凶である人権侵害を根絶するよう働きかけるべ きである

Logo-Sombath Initiative8 月 31 日、バンコクのタイ外国人記者クラブで主催した会見の席で、ソムバット・イニシアテ ィブのメンバーは、社会活動家ソムバット・ソムポーン氏の強制失踪事件をはじめ、ラオスに おける民主主義と人権の制限、表現の自由への介入、人権擁護義務の不履行、海外からの開発 援助や投資の影響をまとめたブリーフィング・ペーパーを公表した。

ソムバット氏の妻でソムバット・イニシアティブの理事を務める Shui Meng Ng 氏は、「夫がビ エンチャン市内の検問所から車で連れ去られて 3 年半以上が経過するが、ラオス政府はいまだ に夫の身に何が起こったか、はっきりとした答えを寄こしてこない」と語った。「オバマ大統 領、国際連合、アセアン、アセアンのパートナー国政府は、ソムバット誘拐事件を今すぐ解決 し、夫を無事な姿で私や家族のもとに帰すよう、ラオス政府に働きかけてほしい。そして、強 制失踪を一掃し、ラオスの人びとが政府を恐れるのではなく尊敬できるよう、ラオス政府に要 請してほしい」。

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2012 年 12 月 15 日、ラオスをはじめ東南アジア地域で農村開発の旗手として活躍していたソム バット氏が誘拐されて以来、ラオス政府は事件の真相究明に向けた努力を怠っている。ラオス 政府は氏の安否や行方について情報を公開せず、これはラオス政府も批准/加入した「市民的 及び政治的権利に関する国際規約」や「拷問等禁止条約」といった国際条約が定める人権擁護 規定に違反している。ソムバット氏が誘拐されたのは、2012 年 10 月、ラオス国家組織委員会 の共同議長として、ラオス政府や市民団体がビエンチャンで「アジア欧州民衆フォーラム」を 共催する際に協力した直後のことだった。アジア欧州民衆フォーラムでは、土地収奪や人権侵 害といった政治的な問題が議論となり、このことが政府内の一部の不評をかったと見られてい る

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International Commission of Jurists(ICJ)で上級国際法律顧問を務める Kingsley Abbott 氏は、 「ラオス政府が最後に捜査の進展を詳しく公表したのは 3 年以上も前のことで、国際法が定め る義務にのっとって事件の究明にきちんと努力してこなかったことは明白だ」と指摘した。 「ラオス政府は国際社会に対して『捜査を続けている』と言っているが、それだけでは不十分 である。信頼性がおけ、効果のある捜査を行い、配偶者である Shui Meng さんに対してはもと より、捜査の進捗状況を定期的に公表することこそが国際法の定める義務だ」。

ラオス政府は、市民の基本的な政治的権利を一貫して規制しており、日常生活はおろか、最近 ではインターネット上で政府批判を行った場合も、即座に逮捕の対象となる。今年 3 月、ラオ ス警察は、タイでの就労中にインターネット上に政府批判を投稿したとして 3 名のラオス人移 住労働者を逮捕し、不当な拘留が続いている。昨年 9 月には、ラオス裁判所が、フェイスブッ クに批判的なコメントを投稿したとして、活動家 Bounthanh Khammavong 氏に 4 年 9 か月の禁 固刑を言いわたした。

ラオス政府は、集会の自由もきびしく取り締まっており、これは国家による人権擁護義務に違 反している。非営利組織(NPA)をはじめ市民団体の活動も厳格な登録制度の下で規制し、登 録を許可する場合は活動計画と予算を入念に監視する。かりに無登録で団体を結成・運営した 場合は逮捕や起訴の対象となる。労働者には「ラオス労働組合連盟」への加入を義務付け、連 盟外で労働組合を結成することは違法行為と見なされる。村落では多くの場合、政権を掌握す る「ラオス人民革命党」の支配下にある民衆組織のみが活動を許される。政府は街頭での無許 可集会や抗議行動を禁止しており、発覚した場合は警察や公安部局が即座に弾圧する。

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フィリピンの元国会議員でもある Walden Bello アセアン人権議連(APHR)副代表は、「ラオ ス政府は市民社会を敵視しており、国連の人権担当も『住民組織や NGO がこれほど恐怖や脅 迫を体験している国は世界でもまれだ』と言っている」と語った。「ラオスは今やアセアンで も最悪の人権侵害国家となった。世界の指導者たちは見て見ぬふりをやめ、ラオス政府に市民 社会への弾圧を停止させるべきだ」

ラオス政府は、2020 年までに「後発開発途上国(LDC)/最貧国」の汚名を返上しようと、急 速な経済成長を目指し、海外からの資本流入に門戸を開いている。しかし、積極的な海外投資 受け入れ政策によって、国内のいたるところで社会・環境・経済上のひずみが兆し、とりわけ 「経済土地譲渡契約(ELC)」や水力発電所といった大規模プロジェクトでは多くの人びとが 立退きを余儀なくされている。こうした国家戦略は、経済・社会・文化の各方面にわたって人 権問題の発生につながる恐れがある。

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Focus on the Global South の Shalmali Guttal 代表理事は、「これまで 20 年以上にわたって多額の 開発援助や海外投資がラオスになだれ込んだにもかかわらず、教育・健康・水資源・衛生・効 果的な法制度といった国内の公共サービスで見るべきものはほとんどない」と指摘した。「投 資プロジェクトは、ラオスの農村の人びとの食糧や生計の基盤である自然環境を破壊している。 食糧供給が不安定になり、汚職・格差・(農民の)移動が増し、一般の人びとにとって生活は 非常にきびしくなってきている」。

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メコン・ウォッチの Doi Toshiyuki 上級顧問も、「日本、アジア開発銀行(ADB)、世界銀行と いった政府や国際機関が、ラオスに対して多額の融資や無償資金を提供しつづけているが、そ うした援助がもたらす効果や、一般のラオス人におよぼす環境・社会・人権上の影響がきちん と検証されていない」と述べた。

2005 年以降、アセアン首脳会談の議長国では、会議と並行して「アセアン民衆フォーラム/ア セアン市民会合(APF/ACSC)」が開催されてきたが、今年はラオスでの開催を断念せざるを えなくなった。ラオス政府がラオス市民の参加を弾圧しないと保障しなかったためである。 APF/ACSC の主催者側も、強制失踪、先住民族の権利、LGBTI の人権、メコン河などの河川 での大規模水力発電所建設といった話題をめぐる論争をラオス政府が禁じることを拒否した。

Human Rights Watch HRW

Human Rights Watch の Phil Robertson アジア担当副課長は、「ラオス政府のやり方を認めれば、 今回のアセアン首脳会談に集う人びとに、市民の声や人権侵害への懸念を伝えることができな くなる。会期中、公式・非公式の場で人権問題に踏みこむことで、会談に緊張感をもたせられ るかどうかは、オバマ大統領をはじめ世界の指導者たち次第だ」と語った。「世界の指導者た ちは、ラオス政府に対して、対ラオス関係の将来が国内の人権状況の改善にかかっており、そ の第一歩として、ソムバット強制失踪事件の解決があることをきっぱりと伝えるべきである。 一方、ラオス政府も、海外投資を国際人権法の定める義務にのっとって実施することを公約す べきだ」。

問い合わせ先(省略)

For more information, please contact: 

  • For ASEAN Parliamentarians for Human Rights, in Bangkok: Oren Samet (English), +66- 99 278 7334, email: [email protected], follow on Twitter @ASEANMP
  • For Civil Rights Defenders, in Stockholm: Gabrielle Gunneberg (English, Swedish), +46 8 545 277 30, email: [email protected], follow on Twitter @crdefenders
  • For Focus on the Global South, in Bangkok: Shalmali Guttal (English, Thai, Lao); +66 81 375 6409, email:  [email protected]; Twitter @commonmolly
  • For Human Rights Watch, in Bangkok: Phil Robertson (English, Thai), +66-85-060-8406, email: [email protected], follow on Twitter @Reaproy
  • For International Commission of Jurists, in Bangkok, Kingsley Abbott (English), +66 9 4470 1345, email: [email protected], follow on Twitter @ AbbottKingsley
  • For Mekong Watch, Toshi Doi (Japanese, English), +66-86-974-2941 or +81-80-6223-2159, email: [email protected], follow on Twitter @MekongWatch

Press briefings about various issues in the Lao PDR are also available:

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